« 「わさび丼…想像がつかない」 孤独のグルメ第3話 | トップページ | 驟雨、来たりなば »

判例研究 「国際海上運送する船舶(便宜置籍船・パナマ籍)が公海上を航行中に事故が発生した場合の準拠法」(東京高裁平25年2月28日判決)

※この記事は「判例時報」平成25年6月1日号(№2181)3頁~64頁による。

 本件は、神戸からロッテルダムへ向け航行中だったコンテナ船が、地中海(公海上)において、船倉内に積み付けられたコンテナ中の化学物質(ジアゾ系、自己発熱性物質)が反応を起こして高熱と煙を発生、事故への対処として船倉内に散水等を行った結果、船体と積み荷に損傷が発生したことにつき、原告X(裸傭船者、貨物の荷受人、損害保険会社等)らが被告Y(上記化学物質の貨物の荷送人)に対して、損害賠償請求を行ったものである。

 事故は次のようにして発生した。

 事故を起こしたコンテナ船は、平成16年9月28日、神戸港を出港。問題のコンテナは神戸港にて同船に積み込まれたが、その際「危険物船舶運送及び貯蔵規則」(以下「危機則)に定める危険物積載を示す標示等は無かったため、一般貨物として甲板上ではなく、第三船倉の下層、左舷第三燃料油タンクに僅かな空隙(10~15センチほど)を隔てて側面と底面が密接するように積み付けられた。
 同船はシンガポール等へ寄港後、スエズ運河を通過し地中海に入った。
 地中海を航行中の平成16年10月17日午後5時ごろ、左舷第三燃料油タンクの加熱を開始。これは同燃料油タンクが喫水線下に位置し、海水により冷却されていることと、同タンク内の燃料油が粘性の強い(流動点摂氏35度以上)もので、油送管を通して機関室に送るには最低でも40度~45度まで加熱する必要があったためである。
 10月19日午後11時55分ごろ、問題のコンテナが積まれた第三船倉内の煙探知機が警報を発し、発煙と温度上昇が確認された。これが本件事故の発生時刻とされる。その時同船は、地中海の公海上を航行中だった。
 船長は船倉を密閉し二酸化炭素ガスを放出し、更に海水スプリンクラーを作動させ海水を散水した結果、20日午前11時ごろ、発煙は認められなくなり、温度も低下した。

 本件裁判における争点は11に及ぶ。うち、主な争点は「本件の準拠法」(争点一)、「貨物の危険物該当性」(争点ニ)、「事故原因」(争点三)、「失火責任法の適用の有無」(争点四)、「Yの過失の有無」(争点五)の五つである。
 本件の準拠法に関して、Xは日本法が準拠法になると主張し、Yは旗国法であるパナマ法が適用されると主張した(日本法も累積的に適用されるとも主張。)。実は第1審である東京地裁での判決(平22・7・27判決)では、この件は争点ではなく、控訴審になって新たにY側から出された争点である。第1審では、Yも日本法の適用に対し、特に異議を出さなかった。
 では、なぜ控訴審になって準拠法が問題になったかと言うと、「消滅時効の成否」(争点十一)が絡んでくるからである。実は、本件に旗国法であるパナマ法が適用されるとなった場合、パナマ民法1706条によれば、不法行為に基づく損害賠償請求権は、「被害者が損害を知った時から一年で、時効により消滅」する。つまり、Y側としては、もし不法行為責任が認められた場合でも、原告(控訴人)Xの請求を「時効でチャラ」にするつもりで、準拠法を争点に持ち出したと思われるのである。
 この件をややこしくしているのは、事故を起こしたコンテナ船がパナマ船籍であること、事故が発生した海域が公海上であること、訴訟関係者に外国法人を含むこと、事件発生が平成16年10月19日で、改正「法の適用に関する通則法」(施行、平19・1.1)の施行日前であり、旧法が適用されることである。
 旧法令によれば、本件の準拠法は旧法11条1項により「不法行為に因りて生ずる債権の成立」の「原因たる事実の発生したる地」(結果発生地)の法律となる(本文は漢字カナ交じり)。しかし、「結果発生地」が公海上であるため準拠法とすべき法律が無い。
 このような事情につき、原告(控訴人)側は、外航船舶は各国の領海若しくは公海上を航海するものであって、どこでどのような海難・事故等に遭遇するか分からない(予見性)。事故発生地を準拠法決定の連結点とするのは、当事者の予測可能性を害する。むしろ、当該事実関係と最も密接な関連性のある地の法律を適用すべきである。関係者のほとんどは日本人若しくは日本法人であり、問題のコンテナの積み込みも日本(神戸)で行われている。裸傭船者である控訴人NYKはパナマ法人だが、同社は日本郵船株式会社の子会社であり、日本郵船との間で定期傭船契約を結び、事故のあったコンテナ船を日本を基点とする海上輸送サービスに投入していたこと、上記定期傭船契約の締結地も日本(東京)であり、同契約上の仲裁約款では、東京の社団法人日本海運集会所を仲裁人とする旨記載されていること、東京地裁における第1審では被告(被控訴人)側も日本法の適用を認めていたこと等々を理由に挙げ、「本件の準拠法は日本法である」と主張した。
 これに対し、被控訴人Y側は「本件事故は本船上で発生しており、本船は事故発生時に公海上を航行していたから、本件事故に係る不法行為の準拠法は本船の旗国法であるパナマ法」である旨主張し、「本件事故に係る不法行為の準拠法はパナマ法である。ただし、旧法例11条2項により日本法も累積的に適用される。」とした。
 両者の主張に対し判決は、原則的には事故発生地(結果発生地)の法を準拠法とする立場をとりつつ、事故が公海上で発生したことにより準拠法が存在しない事情を鑑み、「条理」により、「本件事案と最も密接に関係する地の法を準拠法として選択すべきである」とした。
 その上で、「本件事故は国際海上物品運送を行う本船が日本を出発地とする定期航行中に本船に積載された本件各貨物が原因となって発生したものであり、本船に関する物権の得喪変更が問題になるものではなく、国際海上物品運送を行う本船の運行上の安全に最も密接に関係する地が本件事件に係る不法行為と最も密接に関係する地であると解するのが相当であるところ、本件各貨物が本船に積載された地は日本である。また、本件事故により損傷を受けた他の荷物も全て日本で積載されたものである。」
 「本船の裸傭船者である控訴人NYKはパナマ法人であるが、日本を本拠地として活動してる日本郵船(日本法人)の関連会社であり(以下略)」
 「原審において、被控訴人を含む当事者全員が、準拠法が日本法であることを争わずこれを認めており、このことを前提に主張立証が行われた。このこと自体は準拠法を決定する上で法的拘束力を有するものではないが、当事者全員が本件事案と最も密接に関係する地は日本であると考えていたことは、準拠法を決定する上でも参考になる。」とし、以上の事情から「本船の運航上の安全に関する有する地は日本であると認めるのが相当である。」とした。
 一方、被控訴人Y側の主張に対しては、「確かに、公海上における船舶衝突の場合には不法行為地の法は存在せず、船舶衝突の不法行為と最も密接な関係があるということができるのは船舶自体であり、その旗国法が準拠法となるのが原則であるということができる。しかし、海上物品運送のため公海を航行中の船内で事故が発生した場合には、公海上における船舶衝突のように船舶自体よりも、海上物品運送を行う船舶の運航上の安全に関する事柄の方がより当該事故と密接な関係があるということができるのであり、この見地から、上記のとおり本船につき締結されている定期傭船契約の契約地が日本であること、本件各貨物が本船に積載された地が日本であることなどの諸事情を考慮すれば、本船の旗国法がパナマ法であることや裸傭船者であるNYKがパナマ法人であることを考慮しても、上記のとおり、本件事故は本船が日本を出発地とするアジア~欧州間の定期航路を航行中に発生したものであるのに、控訴人NYKは、少なくとも本船の運航に関してパナマ共和国を本拠として活動していたというような事実は認められず、その他、本船の旗国法であるという意外に、パナマ共和国と本船の運行ないしその積荷及びこれを原因とする本件事故との間に何らかの関係性があることをうかがわせる事情は見当たらないことから、パナマ共和国より日本の方が本件事故に係る不法行為とより密接な関係がある地にあたるというべきである。」とし、結論として「本件事故に係る不法行為の成立及び効力に関する準拠法は日本法と解するのが相当である。」と判示した。
 なお、本件の準拠法が日本法となったため、争点十一のパナマ民法による消滅時効の適用は否定され、同争点は「判断する必要がない」とされた。 

|

« 「わさび丼…想像がつかない」 孤独のグルメ第3話 | トップページ | 驟雨、来たりなば »

学問・資格」カテゴリの記事