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「船員の常務」(東京高判平25.2.6)

 「判例時報2181号」判決録(65~76頁)より 
 平成20年2月29日、瀬戸内海・音戸の瀬戸を南下(南航)中の貨物船が、同航路を台船を曳航しつつ北上(北航)してきた引船と同瀬戸最狭部(可航幅約60m)で行きあい、台船を回避しようとして右に大転舵後、護岸に衝突する海難事故が発生した。
 広島地方海難審判所は、平成21年3月17日に、貨物船側に戒告する旨、引船側の所為は海難発生の原因と成らい旨、裁決した。これを不服として貨物船側は第二審を請求、海難審判所は平成23年5月31日、貨物船側及び引船側双方に過失ありとして、いずれをも戒告する旨の裁決を出した。理由は、両船とも音戸の瀬戸の最狭部で行きあう事を回避しなかったことが海難発生の原因であること(双方に注意義務違反の過失あり)。前審ではおとがめなしだった引船側には、「余裕のある時期に音戸の瀬戸水路を見通すべき注意義務に反する職務上の過失」があったとして、戒告した。
 上記審判の裁決を不服とする引船側が、「本件海難は引船側の過失で発生したものではない」旨主張して、「裁決の取り消し」を求めて起こしたのが、本件裁判である。原告は引船側、被告は海難審判所長、被告補助参加人として、貨物船側船長。被告側は本件海難を発生させた原告側の過失として、「①余裕のある時期に音戸ノ瀬戸水路を見通すべき注意義務違反のほか、②設置されているライブカメラ等により見張り義務を行うべき注意義務違反を」主張、原告は反論として「海難は貨物船側の一方的過失によるもの」と主張して、自己の過失の有無を争う態度を示した。
 判決は「棄却」(平25・2・6第一特別部判決)。
 詳しい経緯は「判例時報」に詳述されているので省く。

 関係する船舶について、
貨物船 
 船種 船名 貨物船 ○○丸
 船 籍 港  広島県呉市
 船舶所有者 有限会社○○汽船
 総トン数    696トン
 全  長    68.14m
 幅       11・50m
 深  さ    5・00メートル
 機関の種類 ディーゼル機関
 出  力   735キロワット
 船舶番号  1402※※
 フラップラダ―、バウスラスター装備、
 船橋内に、ライブカメラの映像受信用パソコン1台。
引船及び台船
 船種 船名 引船第三十××丸(台船▲▲1号)
 船 籍 港  広島県豊田郡大崎上島町
 船舶所有者 有限会社●●汽船
 総トン数   19トン
 全  長   16.40m (台船30m)
 幅       4.20m (同12m)
 深  さ    1.80m (同2m)
 機関の種類 ディーゼル機関 
 出  力   316キロワット
 船舶番号  270-223※※広島
 最大速力  6ノット
音戸の瀬戸の状況
 「音戸の瀬戸は、広島県倉橋島北部の三軒屋ノ鼻と本州陸岸の同県呉市警固屋との間を北口、同島清盛塚と本州陸岸の南端にあたる鼻崎との間を南口とする、ほぼ南北に延びる長さ約700メートルの狭い水道である。その北方が呉港呉区及び広島港に、南方がL字型に東方に屈曲して倉橋島北東岸の双見ノ鼻から安芸灘を経由し、来島海峡、釣島及びクダコ各水道にそれぞれ通じている。主として総トン数500トン未満の小型船の常用航路となっており、北口沖及び南口沖では、それぞれ水域が広がって船舶が待機出来るようになっていた
 音戸の瀬戸は、三軒屋ノ鼻北方約150メートルから194度方向に鼻崎の南方約200メートルまで、長さ約1000m幅約60メートルの水域が浚渫により水深5メートルに維持され(以下、「維持水深域」)、同水深以深の水路の可航幅が、北口付近では約140メートルないし160メートルであるが、南口に向かって徐々に狭くなり、鼻崎の北方約100メートルの所に架かる音戸大橋の北側約130メートルの南側約100メートルの水域が可航幅約60メートルの最狭部となっており、南口付近では本州陸岸が障害物となって水路と南口東側との見通しが悪い。(67~8頁、下線筆者)
音戸の瀬戸の航行安全に関する指導
 6管本部では北口南口に灯浮標を設置し、「①両灯浮標を左に見て航行すること、②速力を出来る限り落とすこと、③狭水道内で行きあう場合は、早期に右転して左舷対左舷で航過すること、④総トン数200トンを超える船舶は、清盛塚から音戸灯台までの間は、他船を追い越したり、並行してこうこうすることはさけること」と指導している。(68頁)
 見通しの悪さへの安全対策として、ライブカメラが複数設置され、パソコン又は携帯電話から映像が得られる。貨物船には受像用にパソコンあり。引船側には専用のパソコンは無かったようだが、携帯電話で確認可能であった。

 判決文の中で、裁判所は両船の位置関係、速力進路を時系列上に詳しく分析し、原告主張を「採用できない」として退け、原告の過失の存否と本件裁決(海難審判所による)の適否について、
 (1)「海上衝突予防法は、船員の常務として38条1項で、「船舶は、この法律の規定を履行するに当たっては、運行上の危険及び他の船舶との衝突の危険に十分に注意し、かつ、切迫した危険のある特殊な状況(船舶の性能に基づくもの含む。)に十分注意しなければならない。」と、同条2項で、「船舶は、前項の切迫した危険のある特殊な状況にある場合においては、切迫した危険を避けるためにこの法律の規定によらないことができる。」と、39条で、注意を怠ることについての責任として、「この法律の規定は、適切な航法で運行し、灯火若しくは形象物を表示し、若しくは信号を行うこと又は船員の常務として若しくはその時の特殊な状況により必要とされる注意をすることを怠ることによって生じた結果について、船舶、船舶所有者、船長又は海員の責任を免除するものではない。」と定めている。
 これらの定めは、海上交通において運行者の当面する状況の多用性にかんがみ、他の船舶との衝突等の危険を避けるために、臨機応変の状況に適合した処置をとるべき規範を定めるものと解される。
 そして、他の船舶との衝突の危険を回避することはまさに海上交通の基本的な要請というべきところ、このような特殊な状況を想定し、事前に、これを回避するために必要な処置をとることは、船員の常務であり、通常の船員ならば当然知っているはずの知識、経験、慣行に基づいて所用の処置を講ずるべきものであると解され、これを怠った場合は過失があると評価することになるというべきである。」
 (2)「前提事実の音戸ノ瀬戸の航行に関する指導等(以下「航行に関する指導等」という。)は、上記の規範を音戸ノ瀬戸の地理的条件等に即して、船舶が音戸ノ瀬戸を航行する場合における、通常の船員ならば当然知ってるはずの知識、経験、慣行(船員の常務)を具体化したものと解される。そうすると、音戸ノ瀬戸を航行する北航船である原告の操船する××丸引船列は、立石鼻を通過した後に左転して南口灯浮標を左に見てこれに近寄って航行し、水路を見通して、南下中の船舶である○○丸を視認した場合には、南口沖の広い水域で行きあしを止めてその船舶の通過を待つべき注意義務を負っていたと言うべきである。しかし、本件においては、北航船である××丸の船長である原告は、これを怠っ」たとして、原告の過失を認めた。(74頁)
 また、被告側(海難審判所長)が主張したライブカメラ等により見張りを行う注意義務に関しては、「原告は携帯電話でライブカメラ映像を確認することができたから、原告としてはライブカメラの映像のほか、目視により見張りを十分していれば、本件事件を回避でき、これを欠いたことが本件事故発生の一因となったと解すことができるが」として、一定の評価をしている。ただ、本件過失の存否に関しては、既に明らかとして検討は不要としている。(75頁)
 裁判上は検討不要とされたが、ライブカメラ映像の積極的な活用は、実務上重要であると言える。

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